ブラック・ストロベリー







インディーズのときの歌なのに、ファンの人たちは一秒逃さず真剣にそれを聴いていた。



しっかりと目に焼き付けるように、誰もがステージの上、その姿をただまっすぐ、見ていた。


となりの高校生のことなんか言ってられなかった、どんどん進んでいく時間、どれもわたしのために作った歌ばっかり、アオイが考えたセトリってことを思い出したら涙が視界を妨げた。


ケンカして口をきかなかったとき、アオイの机の上、書きされていた小さなメモ帳に書かれていたその言葉がハイテンポで紡がれていく。


二人で暮らすようになってから、なんか幸せだなあって思ってた私の気持ちと全く同じような、優しい音色でつづられたただ幸せをうたう曲も、


付き合って5年たって、記念日なんていつも気にしないくせに即興で作ってくれたその曲だって気づいたら音源化していたし、



どれもこれも、

ひとつひとつの思い出が、忘れさせないからって、そう言われている気がした。




アオイが考えたのだ。


昨日、意地でも私にライブに来させようとしたアイツが、またどうせメンバーに迷惑までかけてセトリを無理やり変更したんだろう。



わたしが来ることなんて大前提で、来ないっていう考えはひとつもなしに。




わたしは知ってる、この歌が作られた意味を。

ファンの子は知らない、恋愛よりごはんが好きっていうアオイが、こんなに馬鹿みたいに恋愛ソングばかり書く意味を。




わたししか、知らないのだ。