マイクにそう言って、斜め後ろに置いてあるペットボトルを手に取る。
その姿にさえかっこい、なんて後ろの方から声が聞こえてきて思わず振り返れば、陸が嫉妬すんなよってバカにしてきた。
「そう、なんと今日は俺らの意見一切聞かず中盤戦からは全部アオイが作ったセトリでやります、」
まじで、楽しみにしてて、その言葉に会場が騒ぎ出す。
「俺らの体力フル無視だから、ミスっても許してくれよな」
いいよー、なんて返してくれる観客に向かって手を振ればもちろん会場は沸く。
ファンサービスだって劣らないバンドだ、だからこうして人気なんだろうね。
「今日のアオイは最強だから、タオル振り回してついてきてやって」
そうやって4人が向かい合う。
目を合わせて、全員が息を吸う。
カウントなしにはじまったそのメロディーは、アオイが初めてわたしのためにつくってくれたものだった。
『なあ、聞いてろよ』
付き合って半年くらいたったころ、いつも通りアオイの部屋でくつろいでたらそんなこと言いだして、ベットの上で胡坐かいて歌いだしたのだ。
聴いた瞬間に、いつもと違うってすぐに気づいた。
目を閉じてギターをかき鳴らして、楽しそうに歌う。
その瞼の奥に、何をだれを想っているかなんて聞かなくてもわかったんだ。
好きって、言ってくれないのに。
好きだって言われてる気がした、
いとおしくて、はずかしくて、でも嬉しくて。
終わった後に初めて自分からアオイを抱きしめた。
お前のこと考えてたよ、なんてぶっきらぼうに照れ隠しで私の視界を手で覆って、強引にキスしてきたね。



