ブラック・ストロベリー





隣の高校生の女の子はアオイのファンだった。


曲の終わりにアオイの名前を呼んでいた。


5曲目に歌っていた失恋ソングのときに、涙を流していた。




アオイの歌には共感性がある、動画サイトのコメント欄にはたくさんの共感と、この曲があるから頑張れるっていう言葉がいつも並んでいた。


それをわたしの横で見ては、すげえだろ、俺の歌、そう言って自慢してきたね。






ぶっ通しで6曲を終えたステージが暗転して、会場の誰もがが次を待ち構えていた。



ライトが戻るとともに大きな拍手で包まれて、剛くんがマイクを持った。




アオイはそこにいなかった。






「今日の前半戦は、俺が進めていきます」


その声に会場から名前が飛んでくる。

アッシュグレーの天然パーマ、誰よりも仲間想いで、わたしとも仲のいい剛くんは、今回の件もおせっかいに一番メッセージをくれていた。



MCは軽く挨拶をしたあと、アオイがいないのをいいことに、高校時代のアオイの恥ずかしい過去なんかをネタにして会場を盛り上げていた。



MCが終わったらしれーっと戻ってきて、赤のラインが入った黒のギターをチューニングしながら「あ、MCの間は腹が減ったんで焼肉弁当食べました、二個目の」とかまたご飯の話を軽くして、やっぱりファンから「可愛いー」なんて黄色い歓声をもらってた。





「こっからは、俺の好きな曲を歌います」