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ドラムの剛くんのカウントがその始まりだった。
始まりを告げるギターの伸びる音に、観客の歓声が重なる。
その最初だけでもちろん何の曲かわかった。
すごく懐かしい、卒業してすぐ、アオイがわたしに歌ってくれた曲だった。
マイク越しに響き渡るその声、周りにいる誰もがそこに手を伸ばして、一生懸命に聞いていた。
始まって間もないのに、きらきら輝いているその観客の顔を見ているだけで、なぜか泣きそうになった。
こんなにも、たくさんの人を笑顔にできるなんて、ほんとうに、ズルい男だ。
会場の熱が伝わって、そこに二色のバンドをつけた手を伸ばした。
アイツの歌声をきくのがこんなにも久々になることがなくて、でもアオイはやっぱりアオイだった。
目をつぶり、叫ぶ、そのひとつひとつの歌詞が、わたしの奥にひどく突き刺さる。
ブラストのライブに足を運ぶのは高校生の小さなライブハウスぶりだった。
あの小さなライブハウス、ステージとの段差に大差はなくて、目の前で見てたあの頃。
気づけばそれはどんどん遠くなっていって、ステージの上にいるアイツを見るのが嫌になった。
離れていく、遠ざかっていくその背中に、見て見ぬふりをしていたかったからだ。
アイツがわたしに押し付けたチケットでさえ、遠かった。
どの方向にもその視線をうつして歌うその間に、何度もこちらを見ているような気がしたけど、やっぱり目が合ってるとは思えなかった。
アオイが見ている世界に、わたしはちゃんと映っているかなんて、わからなかった。



