ブラック・ストロベリー





「すごくなんか、ないんだよ」



入場口、受付員にアイツが無理に押し付けたチケットの先がちぎられた。


このチケットを終わった後どうするかは、もう決まっていた。



「たまたま、同じ学校になって、同じクラスになって、それでも全然他人だった、最初は」


軽音部、さぼり癖があって、いつもギターを背負ってる。

そんな印象、わたしとは全然違う、かかわることない存在だった。


「あそこで、アイツのギター弾いてるのを見なかったら、こうなってなかった」


部活がうまくいかなくて、放課後、屋上に逃げ出した。

そこに一人でいた、いつも背負ってたギターを膝にのせて、歌っていた。


『盗み聞きすんなら、ここで聞けば』


ぶっきらぼうに、自分の横に来るように指図して、わたしはおとなしくそれに従った。



「全部、偶然、なんだよ」


もし行動一つ違っていたら、わたしはあいつと距離を縮めることなくただのクラスメイトで、それ以上でも以下でもなかった。

ぜんぶ、偶然が重なっただけなのだ。



もしもの可能性なんて、そんなもの知らないし、今こうなってるからわたしがいて、アイツがいる。



それを誰かが運命だっていう。



「運命なんて信じない、奇跡なんてバカみたいなことも感じない」



そんな夢物語はドラマと映画で十分だ。


アイツはわたしをきれいに描くけど、わたしにはアイツは描けない。



「うん、なんかねーちゃんらしいわ」


無言で聞いていた陸は、は、と息を吐いて笑った。


「正直俺、めっちゃ焦ったし」

「なにに?」


「ねーちゃんもらってくれる奴なんて、アオイくんしかいねーのにさ」



相変わらずアイツのことも、わたしのことも、大好きなんだろうな。

素直じゃないのは姉弟そろって同じだ。



「ねーちゃんが本当に幸せそうに笑ってんの、アオイくんの隣だけだし」


弟目線でいうとな、なんて少し恥ずかしそうに普段言わないこと言ってくるところも、本気で私の心配をしてくれていた証拠だ。