好き、もかわいい、も。
ちっとも言ってくれなかった。
甘いこと言うのなんて、一年に数回の奇跡に過ぎないときだけ。
いっつも暴言ばっかり。
雑に扱うし、わたしの前髪をよく崩しては楽しそうに笑っていたり。
ときめくことなんて、少しもしてくれなかった。
それでも、アイツは全部、わたしをこのバンドにちりばめた。
アイツがつくる歌も、奏でるギターの音も、
楽しそうにうたう、その声も、
全部、わたしがずっと、隣で見てきたものだ。
「きっとどんだけわたしが離れたくなっても、離してくれないよ」
いくら逃げたって逃がしてくれない。
そういうときだけまっすぐ私を見ては、絶対に離してくれないんでしょう。
ギターをかき鳴らす指、
こわれモノを触るようにふれる指先、
わたしの左手に重なる手のひら、
たまに見せるくしゃくしゃの笑顔。
わたしのこと呼ぶ声も、
わたしのことばっか考えてるそのうたも、
嫉妬で低く鳴る声も、
たまに言う素直な言葉も。
まわりくどくても、遠回しでも。
いつだって、アイツは正直なのだ。
もうとっくに、気づいてた。



