ブラック・ストロベリー








「ヒナセさん、ほんとうにありがとうございました!」


バスが宿泊先に到着する。

疲れ切ってほとんど声が聞こえてこなかった車内にアナウンスをかけると、見えた綺麗な宿に一斉にがやがやと騒がしい空気が戻ってきた。



「ではみなさん、また明日会いましょう」



相変わらず、降りるときに生徒さん達は声をかけてくれた。

手を振りながらまたあした、声をかけていくとミキちゃんが降りてきた。



「ヒナセさん、本当に今日はありがとうございました!」


ペコリ、少し頭を下げた後上がってきた笑顔につられて口角が自然とあがった。



「こちらこそ一緒に回れて楽しかったよ、頑張ってね」


結果──見事何事もなく私のいたゴールまでたどり着けたミキちゃんは、嬉しそうに私に抱きついてきた。


すごくうれしそうに、友達みんなで喜ぶその輪にわたしも混ぜてもらって、一緒にキャッキャしてると少し中学生の純粋さに解け込めたような気がした。



「結果がどうなろうと、ヒナセさんには絶対報告するんで待っててください!」


「明日報告まってるね、応援してるよ」


そんな彼女と友達たちを見送って担任の先生と二言三言交わして静まり返った車内に戻る。






「ヒナセ、おつかれ」


段差を上がると、運転席で最後の仕事を確認している藤さんに声をかけられる。



「お疲れ様です」

「随分仲良くなったみたいだな」


宿に向かっていく生徒たちの後ろ姿を遠目に見送りながら、わたしに視線をずらして手招きをした。


「はい、いつもの」


相変わらず絶対人気だよな、なんて言いながら毎度のごとく今日もわたしに缶コーヒーの差し入れをしてくれる。



「ありがとうございます」

「ゆっくりやすめよ」

「藤さんこそ、お疲れ様です」



バス内の忘れ物チェック、掃除などをしながら明日の準備を進めていく。




「昼間の話だけどさ」


軽く、ふらっと話題に出してきた藤さんに対して、私の心臓が、ぴく、と反応した。



「俺、意外と本気なんだよね」


ヒナセのこと。

そう付け足して私が座る座席までやってきて、まっすぐな視線が重なった。