ブラック・ストロベリー





「わたしみたいなガキが言えることじゃないし、余計なお世話だなって自分でもわかってるんですけど、」


そんなことないよ、言葉にせずに首を横に振れば、緊張で強張った表情が少し緩んだ。


「ヒナセさん絶対後悔します、なんかそんな気がするんです」


これは中学生の勘です、なんて。

たぶん、その通りなんだってことは自分でもよくわかってた。


中学生にさえ、気づかれてしまうほど私はどこかでもう後悔しているのかもしれない。



それを見ないふりするのが得意なのだ、

全部、知らないふりして逃げるのが、一番の楽な道だと思っているから。




彼女の目は凛としていて、震えた右手はもうどこかに行ってしまったのか、その強い意志に、瞳に、飲まれそうになった。



「わたしが、ヒナセさんの想いも背負って絶対叶えて見せます」


ふんわり、優しく、強く笑った彼女は、とてもじゃないけど中学生のガキだなんて言えるものじゃ無くて。


ガイドの役目なんてできず、むしろ励まされたのは自分のほうだ。





ただ、まっすぐに。
純粋だったあの頃にはもう戻れない。


大人になっていくたびに、自分に素直になれなくなって、本音ひとつ言葉にできなくなるのはどうしてだろう。


傷つくことを恐れて、年を重ねていくたびに弱くなってしまうのはどうしてだろう。



たったひとつ、好きという気持ちだけで、
好きでいるのは難しい。


好きだけじゃ一緒にいられなくなった。

大人になるって、そういうことだと思ってた。


そう言い聞かせて、結局は大人になって傷ついて、ひとりぼっちになるのが怖かっただけだ。




恋する中学生は、そうやって無駄なこと何周も回って考えてしまう馬鹿な大人よりもよっぽど大人だ。