黒い服を着た美女が目を閉じて、手を合わせていた...。
ウェーブがかった肩までの茶髪が、良く似合う美女だ。

━━ここは、長野県上田市にある霊園。
ある墓石の前で、その美女は手を合わせていた。

《真田家之墓》

と、墓石に彫られていた。
姉の純奈と、妹の未央奈が眠っているお墓である。

━━そう、その美女とは、真田美彩である。
美彩は、今年で二十八歳になる。
あの大坂の陣から、十年の月日が経過していた。
女子高生の戦乱の世も終わり、平和な日常生活に戻っていた...。

━━今日は5月7日、未央奈の命日である。

━━美彩は、いつも気になっている事があった。
命日に墓参りに来ると、先に誰かが二人くらい来ているらしく、いつも花が供えられている。
一つは《スノーフレーク》という、ヒガンバナ科の白くて小さい、スズランに似た花。
もう一つは《ガザニア》という、キク科の黄色やオレンジが鮮やかな花だ。

(誰だろう...?)
美彩は、不思議に思っていた。
でも今日は、まだ来ていないようだ。

━━すると、向こうから、小さな女の子を連れた女性がやって来た。
肩までの黒髪のセミロングが似合う美女だ。
左手は女の子と手を繋いでいるが、右手には《ガザニア》を持っていた。

「!?」
美彩は、その女性を見た。

「美彩、お久し振り。」
その女性は、美彩に声をかけてきた。

「な、七瀬様...!?」
美彩は、驚いた。

━━そう、徳川七瀬である。

「同級生なんだから、七瀬でいいよ。」
と、七瀬は微笑した。

「あ、はい...。」
美彩は、女の子を見てから、
「ご結婚されたんですか?」
と訊いた。

「うん、でも離婚して、今はシングルマザーだけど。」
と、七瀬は答えた。

「可愛い女の子ですね。」
美彩は七瀬を見てから、女の子に、
「お名前は?」
と訊いた。

「徳川未央奈(とくがわ・みおな)、五歳です。」
と、女の子は答えた。

「!?」
美彩は驚きを隠せず、
「み...お...な...。」
と、確かめるかのように言った。

そして、美彩は七瀬を見た。

「私の...大切な人の...名前...。
もっと...色々な話を...したかった...。
命懸けで...戦乱の世を終わらせようとした...。
真っ直ぐな心で...私を救おうとしてくれた...。
日本一(ひのもといち)の...女子高生の...名前...。」
と、七瀬は涙を浮かべた。

「み、未央奈...。」
美彩も涙ぐんだ。

「なあに?」
未央奈という少女は、美彩を見た。

「ごめんね、あなたも未央奈ちゃんだもんね。」
と、美彩は微笑した。

「ママ、何で、このお姉ちゃん泣いてるの?」
未央奈は、七瀬を見た。

「.....。」
七瀬は、黙って首を横に振った。

━━七瀬は、ガザニアを供えて、未央奈達の墓石に手を合わせた。

「そのお花、七瀬さんだったんですね。」
と、美彩が言った。

「ええ。」
七瀬は、墓石を見て、
「花言葉は《潔白》・《きらびやか》・《あなたを誇りに思う》。」
と、噛み締めるように言った。

「では、スノーフレークも七瀬さん?」
と美彩が訊いた。

「スノーフレーク?
それは、私じゃないわ…。」
と、七瀬は答えた。

「なら、一体...誰が...?」
美彩は呟くように言った。


━━そんな二人のやり取りを、一人の美女が遠くから見ていた。
そしてその美女は、静かに目を閉じて祈りを捧げた。

━━二十五、六歳だろうか?
肩までの黒髪のストレートが似合う美女で、その手には《スノーフレーク》の花を持っていた!!
スノーフレークの花言葉は、《純粋》・《純潔》・《汚れなき心》・《皆をひきつける魅力》である。

━━その美女の首には、金の十字架のネックレスが輝いていた...。


《終》