豊臣麻衣がこの世を去ったあたりから、豊臣政権内に、少しずつ亀裂が入り始めた...。

石田絵梨花と徳川七瀬が、徐々に対立を始めた。
事あるごとに、意見がぶつかり出したのだ。
双方とも、『豊臣蓮加様の為』という考えの下である。

ただ七瀬の場合は、七瀬個人の意見ではなく、例の非公式ファンクラブが、あれやこれやと意見をするようになって来ていた。

━━ファンクラブは徳川七瀬の家紋(かもん)の《三つ葉葵(みつばあおい)》に因んで、《葵会(あおいかい)》と名乗り出した。

本多花奈の助言もあり、七瀬は、葵会の行動を黙認していたが、段々エスカレートして来ていたのだ。

最初は、
『徳川七瀬様の為にこうしたい...。』
みたいな言動であったが、そのうち、
『徳川七瀬様は、きっとこの様にお考えだと思う。』
になり、最終的に、
『これは徳川七瀬様の意向である。』
と、あたかも七瀬の意思であるかのような、言動を始めた。
彼女達も悪気がある訳ではなく、ただ純粋に七瀬を慕っているだけなのだが、日に日に過激になって来ていた。

「何かマズくない?」
七瀬は、花奈に相談した。

「少し過激になってはいますが、彼女達も“蓮加様の為”と言っているので、筋は通ってます。
このまま様子を見ましょう。」
と、花奈は答えた。

━━エスカレートしながらも、彼女達は、
『七瀬様は“豊臣蓮加様の為に”、このようにお考えだ。』
と、筋を通していた。

ただ、その内容が絵梨花の考えと真逆だった為に、対立が始まったのだ。

━━そんな時、絵梨花が葵会の女生徒達と思われる連中に、襲撃される事件が発生した。

━━更に、越後地区の上杉史緒里達が、竹刀や木刀等を大量購入している事に対して、葵会が、
『徳川七瀬様が上杉家の行動を、豊臣麻衣様が発令した、《刀狩令(かたながりれい)》に反すると思っておられる。』
と、痛烈に批判した。

麻衣は生前、争いを無くすため、新たな武器の購入等を禁止する《刀狩令》を発令していた。

これに対して、イラッとした史緒里の家臣の直江かりんが、
『竹刀は剣道部で使用する物です。
木刀集めは、主君、上杉史緒里様の趣味でございます。
徳川七瀬様は、部活動や個人の趣味にまで、いちいちケチを付けるおつもりですか?』
と、メールで返信をした。

今度は、このメールに対して葵会が、
『徳川七瀬様を挑発している!!』
と、言い出した。

かりんが送ったこのメールは、後に《直江状(なおえじょう)》と呼ばれた。
これをきっかけに上杉史緒里と、葵会を通して徳川七瀬の仲が険悪になって来た。

━━そこで花奈が、
「七瀬様、少し収拾が付かなくなって来たので、ここで一度、上杉に対して兵を起こしましょう。」
と提案して、徳川七瀬達は上杉討伐の為に、戦の準備を始めた。

それに気付いた絵梨花は、仲の良いかりん達を助ける為に、戦の準備をした。

━━その頃、信濃地区の真田純奈は、妹の美彩と未央奈と集まっていた。

「絵梨花様と七瀬様が、一触即発の状態になったみたい...。
うちらはどちらに付く?」
と、純奈が訊いた。

「姉さんと未央奈は絵梨花様の方へ、私は七瀬様の方に付きます。」
美彩が二人を見て、
「私の彼は徳川方なので、その方が都合が良いと思います。」
と言った。

「都合?」
純奈が首を傾げる。

「はい、これでどちらかが勝ったら、相手を助けて貰えるようにお願いするのです。
そうすれば、どちらが勝っても、真田は残ります。」
と、美彩が言った。

「なるほど、それは名案ね。」
と、純奈は言った。

そして、純奈と未央奈は豊臣方に、美彩は徳川方に付いた。

今までの恩などが、色々と絡み合い、島津怜奈・毛利まあやは、絵梨花の方に付いた。
伊達蘭世は、七瀬の方に付いた。

七瀬は麻衣から、関東方面を任されていたので、その位置関係から《東軍(とうぐん)》と呼ばれ、絵梨花は、大坂女学園にいたので、《西軍(せいぐん)》と呼ばれるようになった。

━━ただ、絵梨花や七瀬の位置から、西軍や東軍と呼ばれているだけで、日本の西と東に完全に分かれた訳ではない。

現に上杉史緒里達は、位置的には東軍側だが、七瀬と対立している為、西軍になる。

再び、戦乱の世に逆戻りしてしまいそうだ...。