「未央奈、よく来てくれましたね。」
豊臣麻衣が、笑顔で出迎える。

「麻衣様、お久しぶりです。」
真田未央奈は、頭を下げた。

「改めて宜しくお願いしますね。」
と、麻衣が言った。

「こちらこそ、お願い致します。」
再び、未央奈は頭を下げた。

「そんなに緊張しないで。」
と、麻衣が言う。

「はい。」
と、言ってはみたが、未央奈は緊張していた。

相手は、従一位・関白・太政大臣の豊臣麻衣である。
緊張するなという方が無理かもしれない。

━━真田三姉妹の純奈は、元々、《従五位下》の官位と、《安房守(あわのかみ)》の令外官を持っていたので、麻衣は、未央奈と姉の美彩に、官位と令外官を授けた。

姉の美彩は、《従五位下》の官位と《(伊豆守(いずのかみ)》の令外官。
未央奈には、《従五位下》の官位と《左衛門佐(さえもんのすけ)》の令外官を授けた。

━━《安房守》や《伊豆守》などは、苗字と組み合わせて呼ばれる事が多い。
純奈は《真田安房守(さなだあわのかみ)》、美彩なら《真田伊豆守(さなだいずのかみ)》といった具合いだ。

「私、まだ中学生なのに...宜しいんでしょうか?」
と、未央奈が訊いた。

「ええ、あなたには将来的に、蓮加をサポートする立場になって欲しいの。」
と、麻衣が言った。

このまま、争いがない状態で、妹の蓮加に引き継ぎたい...。
麻衣は、そう願っていた...。

「かしこまりました。」
と、未央奈は頭を下げた。

━━突然、
《ゴホッゴホッ》
麻衣が咳き込んだ。

「麻衣様、大丈夫てすか?」
未央奈が声をかけた。

「ええ、大丈夫よ。」
と、麻衣は言った。


━━その頃、徳川七瀬にも動きがあった。

七瀬自身には動きがなかったが、七瀬を推してる女子高生達が、非公式のファンクラブのような団体を結成してしまったのだ。

それを知った七瀬は、本多花奈に相談した。

「各地で、私のファンクラブみたいなのが出来てるみたいなんだけど、どうしたらいいのかな?」
と、七瀬が訊いた。

「承認はしないで、取り敢えずは黙認致しましょう。」
と、花奈が答えた。

━━花奈には、考えがあった。

全国にファンクラブみたいなのが出来れば、形勢が逆転して、徳川七瀬が天下を取れるかもしれない。
承認さえしなければ、いざ問題が起きても、知らぬ存ぜぬで通せる。
花奈にとって、これはチャンスだと思った。


━━やはり、麻衣は大丈夫ではなかった。

あの咳き込んだ日以来、日々、体調が悪化していた。
そして、大坂女学園近くの病院に入院してしまった。
段々と、体調が悪くなって来て、寝たきりの時間が増えて来た。
石田絵梨花、徳川七瀬、真田未央奈達が、代わる代わるお見舞いに来ていた。

「絵梨花...。」
麻衣は絵梨花の手を握ると、
「蓮加の事を...お願いね...。」
と、言った。

「かしこまりました。」
絵梨花が返事をした。

「七瀬さん...。」
次にお見舞いに来た七瀬に、麻衣は、
「蓮加を...お願いします...。」
と、頼んだ。

「かしこまりました。」
七瀬が答えた。

「未央奈...。」
今度は未央奈に、
「蓮加を支えてあげてね...。」
と託した。

「かしこまりました。」
未央奈は頷いた。

未央奈はともかく、絵梨花と七瀬の二人に、妹の豊臣蓮加の事を託した事が、このあとの出来事を複雑にしてしまった。

そして病状が悪化した麻衣は、この世を去った...。

麻衣は生前の活躍が、朝廷の眞衣より高く評価され、《正一位》の官位が授けられた。

豊臣麻衣、高校二年生。
戦乱の世を終わらせ、正一位、関白、太政大臣までになった、女子高生初の天下人の人生は、美しく幕を閉じた…。