━━尾張地区清州女子高天守。
織田佑美は悩んでいた。

美濃の斎藤綾乃との戦についてだ。
稲葉山女子高を攻めるには、近くに拠点となる学校が欲しかった…。
しかし近くに学校はない。

そこで佑美は、プレハブ校舎を稲葉山女子高の近くに建てようとした。
佑美は、何人かの家臣に命令をして、プレハブ校舎の建設に取り掛かった。

しかし、佑美が建てようとしている場所は、稲葉山女子高から10㎞ぐらいしか離れておらず、当然、綾乃の軍に攻撃をされて、思うように工事が進まなかった。
もうかれこれ半月程経つが、全然進んでいなかった。

「校舎の建設、進んでいないようですね...。」
隣りにいた、羽柴麻衣が言った。

「うん、さすがに近すぎたかな...。」
と、佑美は呟くように言った。

「佑美様。」
麻衣が佑美を見る。

「ん?」
佑美も麻衣を見る。

「その校舎の建設、私にお任せ頂けませんか?」
と、麻衣が言った。

「麻衣に?」
と佑美は言った。

「はい。」
と、麻衣が返事をする。

「分かった、お願い。」
と、佑美は言った。

「かしこまりました。」
と言って、麻衣は天守を出ていった。

━━数日後、麻衣はあっという間に、校舎を完成させた。

今までは、校舎を建てる場所でプレハブの加工をしていた為、綾乃の軍にすぐに見付かり攻撃をされていた。

その為に作業が進まないと考えた麻衣は、近くを流れている長良川を利用する事にしたのだ。

長良川上流の木曽(きそ)山中でプレハブの加工を行い、それを長良川上流から下流へと流し、建設予定地の近くで加工されたプレハブを受け取って組み立てたのだ。

その策が成功して、僅か三日程で校舎は完成した。

墨俣校舎(すのまたこうしゃ)の完成である。
一晩で完成したような、その建設スピードから、《一夜校(いちやこう)》とも呼ばれた。

「完成したようね。
戦の準備をするよ。」
と、佑美は言った。


━━稲葉山女子高天守。
綾乃は織田に備えていた。

「━━あ、綾乃様...。」
と、家臣の一人が声をかけてきた。

「愛未様とみり愛様のお部屋から、それぞれこのような物が...。」
と言って、家臣は二冊の日記を差し出した。

綾乃は、その日記を読んだ。

《みり愛の日記》
『今日、愛未ちゃんから次の後継者に任命された。
驚いた...。
私は、綾乃ちゃんに後継者になって欲しかった...。
私は綾乃ちゃんが好き。
綾乃ちゃんとなら、何だって出来る気がするもん。
綾乃ちゃん、ママが違う事をすごく気にしてるみたいだけど、そんなの関係ない。
私には、愛未ちゃんも綾乃ちゃんも大切なお姉ちゃん...。
こんな時代じゃなかったら、もっと綾乃ちゃんと楽しい時間を過ごせたのかな…。』

《愛未の日記》
『綾乃に悪い事をしちゃったかな...。
ホントなら綾乃に任せるべきだと思う。
でも綾乃は少し優し過ぎる...。
あと、気を遣い過ぎる...。
美濃は面倒な場所だから、後継者にしたら、プレッシャーとかで潰れてダメになっちゃいそう...。
その点、みり愛は一人じゃ不安だけど、綾乃がいてくれるなら大丈夫だと思う...。
綾乃はどう思ってるか分からないけど、私は綾乃が好き。
みり愛と同じくらい好き。
母親の事とかどうでもいい。
綾乃の笑顔を見るのが好きだから、自由にやって欲しくて、後継者にしなかったけど、やっぱり、綾乃を傷付けちゃったよね...。
綾乃、ゴメンね...。
不器用な姉で...。』

「あ、愛未姉さん...みり愛...。」
綾乃は呟くように言うと、
「...ごめんなさい...ごめんなさい...。」
二冊の日記を抱きしめて泣いた...。

ちょっとした気持ちのすれ違いで、大切な姉妹の命を奪ってしまった...。

「綾乃様!!」
と、別の家臣が天守に駆け込んで来た。

「ど、どうしたの?」
綾乃が、涙を拭って訊いた。

「織田の軍勢が攻めて来ました!!」
と、その家臣は言った。

「わ、分かったわ。」
と、綾乃は言った。


しかし、織田佑美の勢いは本物であった...。
あっという間に綾乃を討ち取って、稲葉山女子高を落としてしまった。

綾乃の最期は、穏やかな表情であった...。
(向こうで、二人にちゃんと謝ろう...。)

斎藤綾乃、高校二年生。
また一つ、美しい華が散った…。