木嶋先輩は東京のバレー強豪校から推薦を受けて、その大学への入学が決まっている。
そのため卒業式が終了してからすぐ練習に合流するため、これで東京へ向かう。
麗さんは管理栄養士の資格を取るために地元の大学に通う。
つまり二人はこれから遠距離になってしまう。
耳が痛くなりそうなほど麗さんに色々と言われているのに、木嶋先輩はただ微笑んで頷きながら聞いている。
麗さんには申し訳ないけど、テツが言ったことがものすごく理解できてしまう。
新幹線が発車する放送が駅のホームに鳴り響いた。
すると木嶋先輩は持っていた荷物を地面に落として、麗さんを抱き締めた。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃい。東京の女と浮気なんてしたら、これ捨てるからね」
「捨てさせることなんてない。俺は麗一筋だからな」
木嶋先輩を乗せた新幹線は東京へと発車した。
麗さんは新幹線が見えなくなっても、左手の薬指にはまった指輪を右手で包み込むようにして握りずっと線路を眺めていた。
あたしはそんな寂しそうな麗さんの背中を見ていられなくて、つい麗さんを抱き締めた。
「…澪ちゃん?」
「我慢なんてしないで下さい。
寂しいけど泣いちゃいけないなんてこと、ないんですから…っ」
「…っ…ありが、と…澪ちゃん…っ」
賑やかな駅のホームで二人抱き締めあってただただ一緒になって涙を流した。