「やっぱここは静かだな。秘密基地みたいだし」

 石段に座る奏多が持ってきたサイダーのプルタブを開けると小気味いい音がした。

 わたしも「そうだね」と眼下に広がる影森の町を一望した。

 湿った草の匂いが辺りを包んでいる。

 近くでたくさんの蝉が鳴いている。

 後ろの木々にも止まっているのかな。

 「てかさ、なんで今日は裏山なの?」

 「ここならナツとゆっくり話せるだろ」

 「別にいつでも話せるじゃん。家だって近いんだし」

 スープの冷めない距離に奏多の家はあるわけだし。

 電話だって出来る。会おうと思えばいつだって、わたしと奏多は会える。
 
 「ふたりで話したいんだよ。顔見てさ。ここなら静かだし、それに懐かしいだろ?」

 奏多は影森の町に広がる空を見上げて呟いた。

 癖のある髪が風になびく。