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夕方でも容赦なく降り注ぐ太陽の光がアスファルトの上を踊っている。砂漠みたいだなと思う。喉もカラカラだ。
お父さんを見送ってからトモちゃんに返し忘れていたタッパーの存在を見つけて、わたしも家を出た。
「ごめんね。忘れちゃってて。どうもありがとう」
「もう一生返ってこないかと思ったわよ」
喫茶店に着いて手渡すとトモちゃんが冗談っぽく笑った。
だけど、わたしは内心ヒヤヒヤしていた。
だって、わたしの夏休みはこれが本当に最後かもしれない。
そうなれば、今返しておかなかったら一生わたしからは返せなかったかも。
お店にはカレーのいい匂いが漂っている。
「今日はお客さんいないね?」
「もうすぐお盆じゃない? だから帰省やらなんやらでみんな影森を出るからね。まぁ、店は暇よ」
カウンターから見えるトモちゃんは厨房に立ってお鍋を混ぜながら自嘲の笑みをもらした。
その言葉の通り喫茶店にはわたししかお客はいない。



