わたしはいつも本当に大切なものに気づけない。

 気づけていないことにすら気づかない。

 見落としていても、わたしはそれが一体なんなのなわからないだろう。


 今じゃなくていい。明日でいい。いつかでいい。

 そうやってやり過ごす。

 傷つくのも嫌だし、怖い思いもしたくない。

 悲しいことだって知りたくない。

 そんな思いを知るくらいなら退屈な毎日をゆらゆら生きていればいい。だって死ぬのはやっぱり嫌だから。


 それが大きな間違いだったのだろう。

 わたしの罪は、きっとーーー。


 「ナツっ……!」

 奏多が声の限りに叫ぶ。

 パトカーか、救急車か、サイレンの音が聞こえる。

 
 もう声も出そうにない。ひゅーひゅーと喉が鳴る。

 真っ黒なアスファルトに指を這わせてわたしは奏多に手を伸ばす。

 真っ先に気づいてくれた奏多がわたしの手をとってくれる。

 よかった。やっと、握れた。


 こうやってちゃんと手を繋いだのは初めてかもしれない。

 嬉しい。嬉しいのに、悲しい。



 ねぇ、奏多。ありがとう。

 それからごめんね。

 せっかくさよならしようとしてくれたのに、わたし、ちゃんとさよなら出来そうにないや。


 涙で濡れた奏多の顔がだんだんと見えなくなっていく。