「ねぇ、奏多。わたし、まだ大人になってないよ」
街灯の下、ぼんやりと見える奏多の表情が曇ったのがわかる。
長い間が空いて奏多がようやく口を動かした。
「来年、十七歳になるじゃん……」
「そんなの、ずっと先だよ。それに十七歳って大人じゃないよ」
焦ったようにわたしは言った。
じゃあ、どこからが大人なのかと聞かれてもわからない。
けど、奏多の言葉が引っ掛かっていた。どうしても府に落ちない。
未来のわたし。大人になったわたし。
でも、奏多は今のわたしに母さんのノートを渡してきた。今の十六歳のわたしに。
「奏多がやりたかったことって、わたしに母さんのノートを渡すこと?」
「そうだよ。渡そうと思ってたから。ずっと」
足元に視線を落とした奏多からはなんの感情も読み取れない。
でも奏多が奏多らしくない。わたしにはわかる。ずっと見てきたからわかる。
胸が騒いで混乱しそうになった。
「凛子ね、ついこないだハワイから帰ってきたんだよ。お父さんにわがまま言って。知ってた……?」
奏多は驚くこともせずに目線を上げて答える。



