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羊ヶ丘公園を出る頃、辺りは薄暗くなっていた。
七草神社ではもう夜祭りが始まっているだろう。
浴衣を着てはしゃぐ子供達がわたしと奏多を追い抜いていく。遠くに太鼓の叩く音が聞こえる。
わたしは母さんのノートをしっかりと握り締めて奏多の隣を歩く。落とさないように。
蒸し暑い夏の夜。
それでもまだ完全な夜を迎えていない。
紫色の空は、やがて濃紺の夜の海に変わっていくだろう。
街灯が灯る。
道の脇に命が尽きたであろう蝉が転がっていた。
時折、母さんのノートをチラりと見て、わたしは歩く。
まだ涙が目の周りに残っていてときどき視界がぼやける。
大人になったわたしに、母さんが残してくれたもの。
ふと、奏多の言葉が耳に蘇った。
『未来の夏希に会ったとき』
どくん、と鼓動が大きく波打つ。奇妙な浮遊感を胃の辺りに感じる。
わたしはその場で足を止めた。
「どうした? ナツ」
すぐに奏多がこちらへ振り返った。



