【完】八月は、きみのかくしごと



 『夏希。あなたが笑う顔、怒る顔。大人になっていく姿。あなたの成長を見ていきたい。ずっとあなたの隣にいたい。夏希と生きていきたい』  


 息が詰まった。もうダメだ。

 涙がこみ上げてくる。

 かくしていた、見せようとせずに耐えてきた、母さんの心の声に。

 鼻の奥が痺れて、母さんが綴った文字が滲んでいく。

 
 『母さんはあなたに厳しくしました。きっと母さんが嫌いだったでしょう。母さんはあなたに立派な大人になってほしい。母さんが教えられることは全て残したい。いつかあなたがお嫁にいくとき、母さんはいないのですから』


 母さんの文字から愛しさが滲んでいるような気がした。


 わたしは頬を拭う。何度も何度も。

 それでも母さんの文字が涙で濡れてしまう。


 『父さんへ。あの子を褒めてあげてくださいね。やれば出来る子です。あの子を褒めてやれるのも、頭を撫でてやれるのも、これからはあなただけです。夏希は頑張りましたよ』