ようやくノートを受け取った。
わたしの指先は震えていた。
青いラインの入ったノートの表紙にはなにも書かれていなかった。
大きく息を吸い込んでノートを開く。
『夏希』
最初に目に飛び込んできたのはわたしの名前だった。
母さんに呼ばれたような気がした。
『こないだまでランドセルが重いと言っていたのに、もう中学生ですね。少しだけ、お姉さんに見えました』
書き始めはわたしが中学生になった頃だ。
それは、母さんが余命宣告をされた頃と同じだった。
『今日は校外学習ですね。お弁当の卵焼きは今までで一番巻き終わりが雑になってしまいました。がっかりしたでしょう? あと何回、あなたにお弁当を作れるのかな』
なんて適当な弁当なんだろうとあの頃わたしは不満だった。当て付けのように残した。
母さんが必死に作ってくれたお弁当は、あれが最後だった。



