【完】八月は、きみのかくしごと



 「どこか出掛けてた?」

 わたしから聞いた。いつもの調子で。明るい声を出すように心がけながら。

 「うん。あ、もしかして電話くれた?」

 奏多がこっちを向いたのがわかる。


 何度もかけた。奏多が出てくれるのをずっと待っていた。家にだって行ったんだよ。

 喉で燻る言葉をわたしは全部呑み込んだ。


 「かけてないよ」

 言いながら首を振った。

 奏多が小さく息を吐く気配がする。


 本当は今すぐ聞きたいことが山ほどあった。

 言いたいことだってたくさん。

 奏多に会えなくて不安だった、会えなかったことが寂しかった。なんだかとても怖かった。

 でも、わたしは早く奏多の話を聞きたかった。

 奏多の口から今すぐに。

 そうしないと、泣いてしまいそうだった。

 
 「そっか」

 奏多はポツリと声を落とした。

 夏の空に太陽が溶けていく。

 影森の町を少しずつ少しずつ優しい夕焼けが包み込んでいく。