「どこか出掛けてた?」
わたしから聞いた。いつもの調子で。明るい声を出すように心がけながら。
「うん。あ、もしかして電話くれた?」
奏多がこっちを向いたのがわかる。
何度もかけた。奏多が出てくれるのをずっと待っていた。家にだって行ったんだよ。
喉で燻る言葉をわたしは全部呑み込んだ。
「かけてないよ」
言いながら首を振った。
奏多が小さく息を吐く気配がする。
本当は今すぐ聞きたいことが山ほどあった。
言いたいことだってたくさん。
奏多に会えなくて不安だった、会えなかったことが寂しかった。なんだかとても怖かった。
でも、わたしは早く奏多の話を聞きたかった。
奏多の口から今すぐに。
そうしないと、泣いてしまいそうだった。
「そっか」
奏多はポツリと声を落とした。
夏の空に太陽が溶けていく。
影森の町を少しずつ少しずつ優しい夕焼けが包み込んでいく。



