「いいんだよ。思ってることを言っても」
お父さんが微笑んだ気配がした。
勝手に嫌いになって母さんを遠ざけてきたのはわたしなのに、まるで許すようにいいんだよ、とお父さんは繰り返す。
「……嫌いになりたくてなったんじゃない」
いつもと同じように声を出そうとしたけどカラカラと乾いた声だった。
大好きだった。大好きなのに大嫌いになった。
大嫌いとはちょっと違うかもしれない。
寂しい、とても。悲しくなる。
傷つきたくない。
この感情をどう扱っていいかわからない。
だから、母さんのことを話したくない。
「嫌いでもいいよ。ただね、母さんのことをちゃんと知ってほしいんだ」
「……ちゃんと?」
「母さんとの約束だから、父さんから話したら母さんに怒られるかもしれない。でも、今ならきっといいかな……もう、いいのかな」
母さんに語るような口調だった。
優しくて、穏やかで、温かい。
わたしにいつも話すように。



