母さんの毅然とした態度が目に浮かぶ。
『もし母さんが死んでも、いつまでもメソメソするんじゃないよ。ちゃんと父さんとふたりで頑張るんだよ』
土気色の顔をしてわたしを見る母さんの眼差しは、余命宣告された癌患者とはとても思えなかった。
『生』への闘志を、まだ燃やしていた。
残りの一ヶ月、出来るだけ多く母さんに会いに病院へと行った。
けど、見舞いに行く度に母さんは痩せていき、年始にお父さんが買った起毛のカーディガンはサイズを間違えたと思うほどぶかぶかになっていた。
『そんなに頻繁に来なくていいよ。本当に。それより、お年玉は無駄遣いしてない?』
自分が癌だというのに娘のお年玉の行方を心配するひとなんて母さんくらいだと思った。
『母さんは寂しくないよ。だから、一時外泊もお断りしたの。行ったり来たりめんどうだものね』
ようやくおりた一時外泊も母さんはなんの相談もなく断っていた。
わたしは寂しかったよ。
きっとお父さんだってそう。
家で過ごせば、もしかしたら母さんが笑ってくれるかもしれない。
そんな淡い期待も萎んでいった。



