【完】八月は、きみのかくしごと



 写真のなかの母さんと向き合っている。

 そんな様子だった。

 「夏希」

 静かな声だった。

 お父さんが唐突に顔を上げた。

 「そろそろ母さんのことを話さないか」

 真っ直ぐな眼差しがそこにあった。

 わたしの首筋が緊張していく。

 母さんのことなら度々お父さんが話していたじゃない。


 「え……?」

 突然のことに、なんて言ったらいいかわからなくて、それだけしか発することが出来なかった。

 父さんを傷つけてしまう夜は今日なのかもしれない、と思う。

 どくり、と鼓動が速くなった。

 「夏希はあんまり話してくれないからね。母さんのこと。忘れちゃったら、母さん、寂しがると思うんだよね」

 
 寂しい……。母さんが?