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家に戻ってからのわたしは電話台の前で受話器が鳴ることを待つのをやめた。
事故の前日、奏多から電話があったことを覚えている。
大丈夫。奏多には会える。
繰り返し言い聞かせた。
そうでもしないともっと泣いてしまいそうだったから。
結局、どこにいても、なにをしていても奏多のことが頭から離れなかったのだけれど。
「夏希、ちょっと来てくれないか」
お父さんは明後日の夜祭りの準備を手伝ってくたくただった。にも関わらず、お風呂を出ると和室の押し入れを開けてなにやら探し物でもしている様子だ。
「なに?」
「ほら、これ見てごらん」
呼ばれて行くと和室の真ん中に座るお父さんがにこやかに写真を見せてきた。
「アルバム? 見返してたの?」
「無性に見たくなったんだ。懐かしいだろ?」
お父さんの周りには写真やアルバムが散らかっていた。



