【完】八月は、きみのかくしごと



 人間ってわがままだ。

 最後だと言われたらここぞとばかりにやりたいことをやろうとする。

 望みを叶えようとする。思い出を残そうとする。やれることは全部。ひとつも取り零さないように。


 その瞬間を生きる。


 今までだって時間はあったはずなのに。

 鬼丸は許してくれないかもしれないけど、わたしはやっぱり生きたい。

 死にたくないんじゃない。生きたいよ。

 この町で。

 喉の奥が熱い。

 どんなに強く引き結んでも唇が震えて歪んでいく。

 影森の町並みがぼやけて、まるで蜃気楼みたいに映る。


 「なんでっ……」

 なんで、わたしは今になって後悔しているんだろう。

 なんで、もっと早く気づかなかったんだろう。

 頬を伝う涙が口の端から入り込んできて汗と混ざってしょっぱい。

 
 ……ひとりでよかった。

 奏多がいたらきっとわたしはこんな風に泣いたりしない。強がってみせる。

 自分が傷つかないように全然平気だと笑う。


 ーーー本当は、とても寂しい


 奏多がいないと、こんなにも寂しい。