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 裏山の石段に着くまでにこないだの二倍は時間がかかったと思う。

 ジリジリと焼き付くすような暑さのせいか、ぬかるんだ細道に足を取られたからか。

 それに、ひとりだったからか。

 いつもは奏多が一緒だった。子供の頃からそう。

 転びそうになったとき、迷ってしまうかもしれないと怖くなったとき、顔を上げれば奏多がいた。

 木に手をついてこっちを見て笑っていた。

 わたしは思った。

 時折、奏多が後ろを振り返り、バランスを取ってはよろけるわたしを見ていたのは、ちゃんとついてきているか確認してくれていたんじゃないかなって。


 石段に座って眼下に広がる影森の町を見渡す。

 どうしても、もう一度ここに来たくなった。

 改めて自分が育った町を見るなんて今までしたことはない。しようと思ったこともない。


 最後だからかな。


 きっと、これが最後の夏休みだから。