「凛子。なにかあったの? 教えてよ」

 途端に胸が騒ぎ不安になった。
 
 問いただす口調が自然と早口になってしまう。

 「私からじゃなくて……奏多くんから、聞いてほしいから。ごめんね……」


 声を必死に繋ぐように、ようやく凛子が答えた。

 唇を震わせて、今にも泣き出してしまいそうだ。


 真夏だというのにわたしの指先は冷たくなっていく。

 凛子が小さな顔をゆっくりと上げる。

 微動だに出来ずにいるわたしを見つめて、ただ頷いた。


 それがなにに対しての頷きだったのかわからない。


 だけど、わたしは予感がした。


 わたしはもうすぐ大切なものを失う。

 きっとそれはもうすぐそこまで来ている。

 わたしが無駄にしてきた時間という日々は待ってくれない。


 思い出から逃げ続けてきたことにわたしはどうしようもなく後悔する。


 そんな予感がした。


 この夏からは、逃げられない。