千瀬は「わかりました」とたった一言でそれを受け入れたけど、きっといまも、戻りたいんだと思う。

──自分の大切な仲間がたくさんいる、あの居場所へ。



「……本当にもどりたいなら、もどってくれてもいいのよ。

乃詠さんにでも連絡して、説得してもらうから」



「……いいって。

俺はただの月霞じゃなくて、莉胡があの人の隣でしあわせそうに笑ってる月霞が好きだったんだから。……莉胡がいないなら、意味ないよ」



「………」



「莉胡がもどらないなら、俺ももどらない」



頼もしい、わたしのたったひとりの幼なじみ。

その存在を失うことが怖くて、あの日、しつこく聞いてしまったの、なんて。



そんなことを言ったら、千瀬に「ばかだね」って笑われそうだ。

──千瀬は、月霞を追放されたあの瞬間から女の子と遊ばなくなった。そして、いままで以上に、わたしに優しくなった。




「莉胡、千瀬〜。

お前らくるの遅すぎるんじゃねえの〜?」



おはよ〜、と。

甘ったるい声と、千瀬の「重いんだけど」という、嫌そうな声。──ホームルーム開始の3分前についた教室は、今日も騒がしい。



「おはよう、アルくん」



千瀬の肩にずっしり体重をかけている彼は、小宮 アルトくん。

大好物は女の子、と自他共に認める女たらしだ。母親がヨーロッパ出身らしく、ハーフであることが彼の綺麗な容貌に拍車をかけている。



「莉胡が寝坊するから。

迎えに行ったら呑気にベッドの中だったよ」



「ふは。相変わらずお前ら仲良いな〜。

我らの総長サマが嫉妬するぞ〜?」



この高校に月霞の人間は、ひとりもいない。

──敵でも味方でもないがどちらといえば敵、に分類される暴走族、「累(かさね)」のメンバーが、多数を占めているからだ。