【完】ファントム・ナイト -白銀ト気高キ王-




千瀬が、目を見張る。

──月霞の総長だけが着ることのできる黒い特攻服。



「……俺はもう月霞の人間じゃないし。

7代目をつとめる気なんて、さらさらないよ」



「……まあお前ならそう言うだろうな」



そう言いつつ、くるりとそれを反転させた織春。

今度目を見張るのは、わたしの番だった。



『我命有限莉胡愛続』

歴代の姫に対し総長が愛を誓う左胸に刻まれた、わたしの名前。──6代目の本命ではなかったわたしが、ひそかにあこがれていたもの。



「『いくら7代目を拒む千瀬でも。まさかだいすきな莉胡の名前が刻まれてる特攻服は捨てられないだろうし、もちろん糸を抜くこともできないだろうからね。

嫌だって拒まれたらこれ見せといて』……だと」



「……あの人まじで何考えてんだ」




はあ、と千瀬が重いため息を吐く。

だけどどうやら十色が言った通り、わたしの名前が刻まれたそれを、捨てる気はないようで。



「ミヤケがこれ見たら絶対爆笑するでしょ」



仕方なく受け取った千瀬がわたしを見てそう言うから、思わず笑ってしまった。

だって想像できる。というか絶対ミヤケなら爆笑する。



「……まあ、いいか。

少なくとも月霞の特攻服に名前入れてる先代の総長は、初代からずっと結婚してしあわせに過ごしてるらしいからね」



6代目は糸抜いたから知らないけど、と。

付け足した千瀬の言葉に引っ掛かりを覚えて、浮かんだ疑問を口に出す。



「初代がそうなのかは、わからないわよね?

だって月霞も累も、初代の情報はないんでしょ?」



「……だって俺初代が誰か知ってるもん」