【Side Oruha】


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「よかったな、目の腫れも落ち着いて」



──丑三つ時。

ふたりきりで話したいと莉胡から言われて、数時間。ペンションの中にいるほかのヤツらは寝静まっていて、音も出さないように外へと出てきた。



雨はあれから一滴たりとも降らなかったおかげで、ペンション前の木製の階段は完全に乾いた状態。

そこに腰掛けた莉胡が、困ったように口角を上げた。



莉胡が車の中で泣いてから、ペンションにつくまでは10分程度。

だけどよっぽど思うところがあったようで、莉胡は泣き止まず。10分も泣けばさすがに目も腫れる。



あきらかに泣いていたのがわかる莉胡を見た千瀬がすぐさま兄貴に文句を言っていたが、莉胡に止められて不完全燃焼に終わっていた。

……ほかのヤツらもおどろいてたけど、誰も理由は聞かなかったしな。



「海で遊んで、疲れてるでしょうけど……ごめんなさい。

どうしても今日、あなたに話したいことがあったの」



雨が降ったあとだからか、見上げる空は都会と違って星が綺麗だ。

「ああ」と短く答えながら、いつか聞いた千瀬の言葉がぼんやりと頭に浮かぶ。




──莉胡がしあわせならそれでいい、と。

口にしたあいつは、何年ひとりで苦しんできたのか。いちばん近い存在への秘めた心を、誰にも言えないまま、ずっと。



「……あのね。

織春に別れ話をするつもりはないの。だってわたしが彼を好きだって言うのと同じぐらい、きっとあなたもわたしを好きでいてくれてるはずだから」



胸の奥にある感情がどれだけ引き裂かれそうになっても、あいつは莉胡との幼なじみをやめようとはしなかった。

自分の感情以上に、何年も莉胡のことを優先してやれるそんな男に、そもそも敵うはずもないのだが。──莉胡の言う"彼"は、千瀬だろう。



「わたしから求めたりしたら、欲張りでどうしようもないでしょう?

……だからわたしは、自分から求めようとは思わないし、あなたと別れるつもりもないけど」



ふう、と。

莉胡が小さく息を吐いた。



差し出された手にはマーガレットのペンダントがあって、胸元には月のペンダントがある。

別れるつもりはなくとも、心の中は変わらない証拠だ。──いっそ別れると言ってくれた方が幾分はマシだったが、まあいいとする。



「……ごめんね。

やっぱりあなたを好きには、なれないみたい」