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──朝。

幼なじみと別登校するようになってから、いつも迎えに来てくれる織春。



「……泣いたのか?」



その彼が顔を合わせて一番にそう言うから、小さく「ちょっとね」と答えた。

いつ千瀬が家を出てくるのかわからない中で話すのは嫌で、彼の服を引いて、行こうと促す。



それに気づいた織春が足を進めてくれて、説明しようと口を開いた。

……思い出すだけでまだ、じわじわと胸を締め付ける痛み。



「千瀬に……

幼なじみは嫌だったって、言われちゃったの」



「……喧嘩したのか」



あれは、喧嘩なんだろうか。

彼が昨日怒っていた理由も、わたしははっきりとわかっていないのに。




「いままで、ずっと……大事だよって言ってくれてたの。

わたしのことを見放したりなんて、絶対に千瀬はしなかった」



あの雷雨の日だってそうだ。

千瀬はわざわざ、紛れもなく"わたしのために"びしょ濡れになることを覚悟して、帰ってきてくれた。



「その千瀬が……

幼なじみなんて嫌だったって、言ったのよ」



15年以上も、一緒にいたのに。

あんな彼の表情を見るのは、はじめてだった。──わたしに告げた言葉だったのに、まるで言った自分の方が傷ついているような、そんな表情。



「……千瀬がわたしのことをどう思ってるのか、本当はずっとそんな風に思ってたのか、それはわたしにはわからなくて。

でも、それが嘘だったとしても本当だったとしても、わたしにとってはすごくショックだったの」



大好きな幼なじみにそう言われたことも、ショックだけど。

だけど何より悲しかったのは、千瀬にいままでそんな思いをさせていたこと。



いっそ莉胡なんて嫌いだよ、って。

そう一言言ってくれれば、こんなにも苦しくないのに。