関東の東側に拠点を置くのが、月霞。

そして西側に拠点を置くのが、累。



十色に追放を言い渡されたあのとき、ちょうど受験生だったわたしは、受験前に志望校を唐突に変更した。

本来なら月霞のメンバーが多数通う予定だったわたしの志望校。そんなところには、もういけない。



けれど暴走族のメンバーと無縁の高校は遠く、わたしの家から一番近いのが、この累が多数通う学校だった。

この説明でなんとなく分かると思うけれど、わたしと千瀬の家は関東の西側にある。



千瀬は西側から東のチームに通っていたわけだけど、わたしも千瀬も当時中学3年生。

月霞に姫がいたことは内部の人間しか知らないし、千瀬は幹部候補生だったから、累に顔がばれているということもない。



だからわたしたちは西で生活してる。

──そしてアルくんは、その西側に拠点を置く累の、6代目幹部だ。



「春(はる)がそんなことで嫉妬してたら、

累はすぐにでも崩壊しそうなんだけど」



「まあね〜」




くすくすくすくす。

アルくんが笑いつつ、「春〜」と彼を呼べば、机に突っ伏していた彼が視線を上げる。



ずいぶんと眠そうだけど、別に眠っていたわけじゃないらしい。

彼にすたすたと歩み寄って「おはよう」と声をかけたら、春は「ん」と返事した後、同じように返してくれた。



「遅かったな」



「……寝坊しちゃって」



「ふ。朝弱いんだろ?」



わたしと千瀬が、もともと月霞の人間であることを、累のみんなは知らない。

もちろんこの人。春こと、下坂 織春(しもさか おるは)もだ。──累の、現6代目総長。



「そう。……千瀬が起こしに来てくれなきゃ、ほんとに遅刻するところだったの。

アラーム鳴ってたの、まったく気づかなくて」