さくら、さくら

「む、山がざわめいとるのぉ。」

同じ桜の木下で、昨日の少女が何か少し大きめの紙袋を持って座っていた。

それにここへ来るときにこけたのか、膝からは血が出てあちこちボロボロ。

それを困ったように桜の木の枝に座って少女を上から見ている桜。

少女にばれないよう、隣に座って

「また来たのか?あのお嬢ちゃん。」

桜と顔を見合わせる。

「のようだな。だが、先程から三時間くらいずっとここに居るのだ。」

なるほど、それで困っていたのか。

うーん、いたしかたあるまい。

「またお嬢ちゃん一人でここへ来たのかい?」

半分呆れ口調。コクリ、とうなずく少女。

「ほら、帰りなさい。」

と、少女を帰るように促す。

「あのね!今日はその……。昨日のお礼をしに来たの!送ってもらっちゃったから……。」

「お礼なんて要らんよ。悪いことは言わんから帰りなさい。」

それでも尚、首を横に振り続ける少女。

持っている紙袋をがさごそと探る。

そこから少女が出したのは一つの饅頭。

「それで、あの、これっ、持ってきたの……。」

「でも……。」

と、断ろうとする。

すると少女は目に涙を溜めて今にも泣き出しそうな顔になっている。

桜からはじっと睨まれる始末。

いや~……。

これは流石にわしの良心が痛むよ。

……しぶしぶ。

「まぁ、そういうことなら……。」

ということで、そこに桜も混ざり、少女の持ってきた饅頭を皆で桜の木の下で並んで頬張った。

そんな次の日。

また少女がやって来たのだ。

今度は紙袋の中にお萩を持って。

またもや桜と顔を見合わせる。

「だからお嬢ちゃん、来ちゃダメって言ってるのに……。」

ほらほら、帰りなさい。

と少女を無理矢理な形だが帰そうとする。

「じゃあ一つだけお願い聞いてくれる?」

あー……。

取り引きってことか?

「分かった、分かった。ええよ、なんでも言いなさい。」

と、呆れ半分軽く言ったつもりだったんだが。

「私と、友達になって!」

「……ほ?」

間抜けな声が出る。

うーん、ちょっと待って、理解するのに時間がかかるね、これは。

うーん……?

「お嬢ちゃん、友達って……。お嬢ちゃんくらいの女の子達だって沢山いるはずだろう?」

「私はオバケとかそういうのが見えちゃうから……。皆私が嘘いってるとか、気持ち悪いとか言って離れていくの。だから友達とかいなくて……。」

暗い雰囲気がもんもんと漂い始める。

お、おお……。

なんと答えればいい?

桜に助けてくれといわんばかりの目を向ける。

すっごいめんどくさそうにお前が何とかしたらどうだ、という顔だ。

酷い!

「じゃ、じゃあ、今からわし達はと嬢ちゃん友達ってことで、いいね?」

「やったぁ!私、林 麗華っていうの!」

「わしは飛鳥。そこのお嬢ちゃんと同じくらいの見た目の女の子は桜という。」

「よろしくお願いします!」

嬉しそうに、丁寧に、挨拶をした麗華。

そうして、その日の夕方彼女は帰っていった。

その後。

「どうしてあの、麗華という少女と友達になんかなったのだ?」

「いや……。わしも友達になる気なんてさらさら無かったけども。なんか話聞いて同情っていつのか?それがなんとも言えんくてのぉ……。」

うーん、悩ましい。

「そうか。……別に飛鳥の場合はいいとして、だが。なぜ私を巻き込む!?」

えっ、何故?

桜にめっちゃ怒られちまった。

「だいたい、私は子供が嫌いなんだ!幼い子供たちは昔から桜が綺麗だのどうのこうのいって花の蕾をむしったり、木の枝を折りたがるからな。」

おお、そういうことだったのか。

なるへそなるへそ。

それからというもの、麗華という少女は毎日のように何かの食べ物を持って桜の木の下へやってきた。

しばらくすれば、お互いに打ち解けて、桜の子供嫌いは日に日になくなっていき、麗華とは名前で呼び合うほど親しくなっていた。

そして、麗華が来るのがいつもの楽しみでもあった。

でも、そんなある日のこことだった。

「麗華ははやく来ないのか?」

いつものように麗華が来るのを楽しそうにしている桜。

確かに、いつも来る時間よりも遅い。

そんなとき、ふと。

木々がざわめき、風がひゅるひゅると吹き出した。

なにか、焦っているのだろうか。

そんな感じだ。

桜もそれを感じ取ったらしい。

彼女も、桜の木の精だから、この森とずっと生きてきている。

だから彼女にも風や木々の声を聞くのは容易いことなのだ。

「急いで、早く。あっちだよ。急いで、急いで。」

そう、急かしたてる木々達。

「早く、早く!あの子が危ない!」

最後に強い突風と共に聞こえてきた声。

「「まさか!!」」