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わしがまだ雀宮山の主をしていた頃のこと。

「む、山がざわめいとるのぉ。」

俺は山や木々の気持ちや、風の声が手に取るように分かる。

今日はいつもより山が騒がしかった。

何事かと思って木々達が導くままに行ってみれば、一人のまだ五歳くらいの少女が桜の木の下で泣いていた。

その子供のそばに桜が困り果ててうろうろしている様子。

「む、子供か。どうした?」

「この娘が、山に迷い混んでしまったようなのだ。それで、桜の木の下で泣いている様なのだが私はどうすることもできず……という訳なのだ。」

「へぇ……、まぁ、わしにはどうすることもできんのぉ。なんせ人間にはわしらは見えんから。」

うーん、どうするものか……。

すると少女はピタッと泣き止み、こちらの方をじっと見つめ、

「見えるよ。」

と言った。

桜と顔を見合わせる。

お互いキョトンとした。

「おじさんのことも女の子も見えるよ。」

おじさん……。

二十歳くらいの若い男の姿をしているのだが……。

この少女からすればわしはおじさんなのか……。

おじさん、ちょっとショック。

それにしてもこの少女、わしらが見えるということは霊感があるのだろうか?

まぁ、そうとなれば話は早い。

「お嬢ちゃん、わしが山の麓まで送っていこう。」

「うん。」

少女の手をひいて送っていく。

別れ際に。

「お嬢ちゃん、もう一人で山に来ちゃいかんよ?」

そういいつつ少女を見送った次の日の昼頃。