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ということで妖魔界に行くことになった。

今はもうすっかり日も落ちて暗くなりつつある夕暮れ時。

「この世界中には決まった場所にいくつか、妖魔界と繋がる出入口があるんだ。」

今いるのは、私が引っ越して来る前の家のすぐ近くにある雀宮山《スズメヤマ》。

山の麓から少し進んだ所の大きな桜の木の下にいる。

「ただし、世界中の各出入口には門番がいるんだ。それは」

「貴様ら何者だ。」

焔の言葉を遮るように現れたのは、見た目が小学一年生くらいの幼い子供。

おかっぱくらいの長さの髪に、淡い桜色の着物を着ている。

気の強そうなつり目気味の大きな黒の瞳と口調。

お人形さんみたいで可愛い……!

「俺は焔。ぬらりひょん様に仕える者だ。ぬらりひょん様から妖魔界にこの娘を連れて行くようにと頼まれたんで、通してくれ。」

「娘……?」

「あぁ。玉巫女の麗華だ。」

「麗華……?」

その女の子は目を見開いて、こちらのことを見据えるようにじっと見ている。

「あの、なにか……?」

「いや、なんでもない。玉巫女殿。私はこの桜の木の精霊の桜といいます。以後お見知りおきを。」

そういって深々と礼をされる。

なんか小さい子にこんなことされたら恥ずかしいんだけど……!

「そろそろ妖魔界へ行かせてくれないか?」

急かすように言う焔。

「うむ。」

そう言うと桜ちゃんは円を描くような仕草をした。

すると、そこからは大きな直径二メートルくらいの円が現れ、中は真っ黒な空間が広がっているようだった。

そこへ手をかざし、フッと息を吹くと手のひらから沢山の桜の花びらがフワフワと舞うように大きな円に吸い込まれていく。

すると大きな円は真っ黒な空間から、光りの溢れる空間へと変わり賑わしい声が聞こえるどこかの都のような風景が見えた。

「さぁ、妖魔界への扉は開いた。入るがよい。」

その言葉を合図に皆はぞろぞろと妖魔界への入口に入っていく。

そして最後、私が入口に入るとき。

袖を強く引っ張られる。

桜ちゃんだ。

「どうしたの?」

少し間をおいて、

「無事に……戻って来るのじゃぞ。」

私のことを上目に、かといって真剣な表情で話す彼女。

「……うん。ありがとう。それじゃあね。」

そういって私は桜ちゃんに見送られて、妖魔界へと入っていった。