さくら、さくら

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目の前にいるのは約三メートル程の大きさになった巨大蜘蛛。

それはギチギチと私の首を締め付けていく。

大きいのに細く、鋭い脚を私の喉に突きつける。

口からはよだれのような液体がボタボタと……。

気持ち悪っ!

「玉を……渡せ……。」

「だから、私そんなのもってないっていってるでしょ……!」

「そうか……。」

あれ?意外と物分かりいい……?

「ならば、お前には用はない。死ね。」

「え!?」

私殺されるの!?

巨大蜘蛛の脚が私の首に向かって大きく降り下ろされる。

誰か…………!

ブスッ

「ぐあ……っ……。」

「……!?」

絞り出すような声をあげたのは、目の前の巨大蜘蛛だった。

巨大蜘蛛の体を貫いているのは、一本の錫杖。

「ふぅ、間一髪……。」

錫杖のさきには飛鳥の姿があった。

「飛鳥……!」

そのまま、飛鳥は巨大蜘蛛の体を真っ二つに切り裂いた。

「お…の…れ……。」

怨めしそうに呟いて、巨大蜘蛛は灰となり土へ還った。

「死んだか……。」

「あの……ありがとう……。」

本当に殺されたかと思った……。

「怪我はないか?」

「う、うん……。」

「まぁ……さしずめ麗華の玉を狙ってのことじゃろうが……。」

きっとそうだ。玉を渡せって言ってたし……。

「まあ、わしらが
がついていてもあんな人混みの中に紛れてしまっては意味がないからの、気を付けるようにするんじゃぞ。」

「うん……。」

そう言って私の頭をポンポンと撫でる飛鳥。

小さい子供扱いか!

でも違和感を感じる…。

「ねぇ飛鳥、そのおじいさんみたいな喋り方どうしたの……?」

「ぬ?」

しばらくの沈黙。

「あ、あ、あぁあぁぁぁ……。」

地面に崩れ落ちる飛鳥。目も泳いでるしかなり動揺してる?

「どうしたの?」

「フッフッフ……。ばれてしもうたか!実は俺は、ていうかわしは、俗にいうジジイキャラってやつでの、素ではこんな喋り方になっちゃうんじゃよ。」

いつもとは全然違うくらいに明るい声で言う飛鳥。

「まぁ、よくそれで小馬鹿にされちゃうからずっと黙るようにしとったんじゃが……。……はぁ……。」

大きなため息。

しかもうずくまって地面にのの字を書き出す始末。

自分で言って、自分で小馬鹿にされるって傷ついてるよ、この人。

それにしても、テンションの切り替わりがなんと慌ただしいことか。

キャラがいつものよりもぶれてる。

ふと。

「でも、私はそれでもいいと思うけどなぁ……。」

口から滑り落ちるように出た私の言葉。

「と、いいますと?」

「えっとね、別に飛鳥が変な話し方でも私は気にしないし、他の誰かにそんなこと言われても堂々としてればいいんじゃないんかな?つまりはー……。ありのままでいいんじゃない?ってこと!」

飛鳥がじーっと私のことを見つめる。

私なにかおかしいこと言ったかな?

「ありのままか……ありのまま……。」

ずっと呪文のように何回も呟き続ける飛鳥。

「うむ!ありのままで気ままに人生を歩んでみるとするのか!それも悪くない!」

楽しそうに笑いながらありのままで、話す飛鳥。

……なんか立ち直ったみたい。

「それじゃあ麗華、皆のもとへ戻るぞ!きっと心配しておるからな!」

今までに見たこともないほどの笑顔を浮かべる飛鳥。

これが本当の飛鳥……。

今までのクールな感じとは違って明るい感じだ。

きっと、今まで本当の自分っていうのを押し殺して、偽って生きてきたのかもしれない。

「む、またはぐれてしまうの……。ほれ。」

「え?」

いつの間にやら人間姿になった飛鳥が人混みの前で立ち止まり、手を差し出してきた。

「こんな人混みの中だとまた、はぐれてしまうからの。手を繋ぐしかあるまい。」

「うん……。」

なんか恥ずかしい……。

手を繋いで歩くわけだし……。

こういうのって少しドキドキする。

相手は妖怪っていっても一応男の子だし……。

でもどうして?

飛鳥と手を繋ぐのが少し、懐かしく感じたのは……。