あいにく、鍵にはキーホルダーとか鈴とか、落として音が鳴るようなものは付いていない。薄暗い通路では、探しだすのに時間がかかることは間違いない。そんな所をまた戻るのかと考えるとため息が出た。


レモン味のため息。


さっきまであんなに美味しい味だったのに……

そのレモン味に気を取られていたのかと思うと、その匂いも味も、自分の旺盛な食欲も疎ましくなる。教室であんなにお菓子も食べていたのにどうして私はこんな事に……

考えても仕方ない。どんなに見つけづらくても、鍵が無いと帰ることはできないのだ。私は諦めて鍵を探すために、通路を戻り始めた。





「――――あの、」





声をかけられたのは戻り始めてすぐだった。

さっき一人だけ通路をこちらに向かって歩いてきていた人に、呼び止められたのだ。

鍵を探すため足元に落としていた視線を上げる。するとその人は、いつの間にか私の目の前に立っていた。