ヒタ……ヒタ……

音はだんだん大きくなる。宮川以外も気付き始めた。

「やっぱ音するな」

林野がそう言った時だった。

「うわああああ!」

藤多が叫んだ。助手席にいた永山もミラーを指差し、怯えている。

「おい、見ろよ」

「なんだよ」

「裸足の女が追っかけてきてるぞ!」

ミラーを覗き込むと、白い服を着た人らしきものが見える。車内は騒然となり、藤多はスピードを上げた。

「やべーよ逃げるぞ!」

ミラーを見ても女を引き離せていないのが分かる。
Qトンネルは長いトンネルだが、進んでも進んでも出口が見えない。

藤多はブレーキを踏んだ。車はギリギリのところで止まる。

「おい……出口も封鎖されてんのかよ……」

隙間無く、鉄で封鎖されていた。出ることなど不可能だ。

「どぉすんのよー」

女子は泣きだした。このままでは埒が明かない。

「俺が奴の注意を引く。だから、お前らはタイミングを見て逃げろ」

「はあ!?何でお前が!?俺にしろ!」

「じゃあな」

藤多は車から出た。

そして、鉄で封じられた出口の方に向かう。
藤多は扉を見つけ、手をかける、

「キャー!」

車の窓が割られたようだ。

「助けてくれー!」

叫び声がする方に目を向けることもなく、藤多はトンネルから出た。

鬱蒼とした山を下る。トンネルが見えなくなった頃、自分は助かると安堵した。
あれでだいぶ時間が稼げるだろ。

これ以上ないほど口角が上がった。