赤に染まる指先

そんなときだった。


しまった、と思った。

間違えた、と気づいた。



今、この時、この時間、この廊下を通るんじゃなかった。



あなたが、いる。



「お前、カノジョと別れたって?」


「まあな」


あなたは友達と楽しげに話している。


…ああもう、最悪だ。


あなたの姿を見たりしなければ。



「あっさりしてんなあ。カノジョあんなに可愛かったのに」



…あなたの声が聞こえるこんな場所に来なかったら。



「他に好きなひとできたんだよね」



…こんなに胸が痛くなることもなかったのに。


私はすぐに柱の影に隠れた。

心臓がばくばくと音を立てる。

息をするだけで気づかれそうで、私は息を殺した。


「好きなひと?」

「同じ学科の田中」

「あ~、超美人だもんな」

分かる、とあなたと友達は楽しそうに話していた。

心が壊れるんじゃないかと思うほど痛くてしかたがなかった。