「お兄ちゃんはね、杏の王子様なの」

「ふふっ、確かに棗くん、王子って呼ばれてるもんなぁ」


杏ちゃんの言葉に、学校での棗くんを思い出す。

すると、杏ちゃんは嬉しそうに笑った。


「杏のお願いは何でも叶えてくれるし、優しいんだ!」

「そっか、棗くんは杏ちゃんが大好きなんだね」


どんなに離れて生活していても、絆は消えない。

棗くんは、家族の絆の強さを、私に教えてくれた。

それは、棗くん自身がその絆に助けられてきたから、そう言いきれたことだったのだと分かる。


「でもね、美羽お姉ちゃんに譲ってもいいよ!美羽お姉ちゃんは優しいから、お兄ちゃんのお姫様にしてあげる」


「杏ちゃん……うん、嬉しい。ありがとうっ」


その小さい体を抱き締めれば、杏ちゃんがキャッキャと笑う。


「行こうか、杏ちゃん」

「うん!」

その小さな手を繋ぐと、10分ほど歩いて、ようやく病院へ辿り着いた。


***


「面会に来ました」

「美羽ちゃん、杏ちゃんいらっしゃい」


顔なじみになった看護師さんの笑顔に元気を貰いながら、私達は病室へと向かう。


すると、バタバタと走る看護師たちが目立った。


何かあったのかな……。

――ドクンッ。

何となく嫌な予感がして、病室へ向かう足取りが少しずつ早くなる。