「家族にも最後まで治療を諦めるなって言われたけど……俺が一番分かってる。治療をしても、副作用が辛くて眠るだけになるって」


きっと、棗くんは今までに辛い時間を過ごしたんだろう。

私が……何も知らずに高校で過ごしてきた時間、一人で戦ってきたんだ。


「それなら、やりたいことを精一杯やりたい。でもそれは、家族を傷つける選択だったから……あの家を出たんだ」


「だから……一人暮らしをしてたんですね……」


私は、初めて棗くんの家にやって来たことを思い出す。

あの時、私が家族と住んでいないのかって聞いた時……。


『あぁ……色々あってね、今は別々に暮らしてるんだ』


今でも覚えてる、その時の棗くんの顔は……少しだけ影っていたから。

それが、この大きな秘密のせいだと、今やっと分かった。


「……でも、やっぱり一人は孤独だと思った。いつ来るかも分からない死に、世界でたった一人になってしまったような……そんな気がしてた時……」


棗くんは、私の手を握る手に、ギュッと力を入れる。