「お父さん、私ね……お母さんが事故にあった日、行ってらっしゃいが言えなかったこと、今でも後悔してるんだ」
「美羽……」
突然お母さんの話をする私を、お父さんは不安げな顔をして見つめる。
「あの日、もっと早く起きてたら……どうしてあの日に限ってって……苦しくてたまらなかった……っ」
声が震えて、今にも泣きそうになった。
だって、どんなにそう思っても、やり直しがきかないのが人の命だから……。
「お父さんも……後悔して、辛くて悲しい思いをしてるんだよね、きっと」
「……俺は、お前の母さんが疲れた顔をしていたのに、気づいてた。あんな状態で外を歩けば、事故にあったっておかしくはなかったのに……」
お母さんは、お父さんと共働きで、仕事でヘトヘトになって帰ってくることがあった。
決して裕福な暮らしではなかったから、仕方の無いことだけど……。
そんな中、お母さんは私のことを大切に育ててくれたこと、ちゃんと覚えてる。
そして、時々とても疲れた顔をしていたことも……。
「共働きになったのも、俺がちゃんと家族の大黒柱としてみんなを支えきれなかったせいだって……悔やんでも悔やみきれなくてっ」
お父さんの目から、ポロポロと涙が流れる。
お父さんが泣いたの……お母さんが死んだ時以来かもしれない。
ずっと、悲しくても素直に泣くこと、辛いと言葉にすることが、出来なかったんだ。


