「だけど……明日、この命が消えるのだとしたら、どうだろう」
明日、命が消えるとしたら……?
そしたら、私はどうするのかな。
なりふり構わず、心残りがないように生きるかもしれない。
「プライドや体裁よりも、叶えたい何かのために頑張れるんじゃないか?」
そうだ、それは、私がよく知ってるはずなのに……。
お母さんが亡くなった日のこと。
仕事に出かけるお母さんに「行ってらっしゃい」を言えなかったあの日。
もう二度と、お母さんを見送ることが出来ないと気づいた時の喪失感……。
あんな辛い気持ちをするくらいなら、何度ぶつかっても……お父さんに向き合うべきだよね。
「棗くん……ありがとうございます。私、大切なことを思い出しました」
さっきよりも強い意志で、棗くんを見上げた。
すると、先に立ち上がった棗くんが、あの日のように私に手を差し出す。


