「うっ……棗……くんっ」


座り込む私の顔をのぞき込む棗くんに、私はブワッと涙が溢れてしまう。

あぁ、棗くんがいる……。

ただそれだけなのに、どうしてこんなにも安心するんだろう。

この広い世界で、一人ぼっちだと思っていたさっきまでの不安が嘘みたい……。


「何となく……ここにいるような気がしてた」

「……私……またお父さんから逃げて……本当に弱虫で嫌になります……」


せっかく棗くんが協力してくれたのに、申し訳なくて俯くと、棗くんはそんな私の前にしゃがみ込んだ。


「じゃあ、美羽はまだお父さんと仲直りしたいってこと?」

「それは……」


心の底では、そうしたいと思ってる。

だけど、あんな風に何もかも否定されて……また向き合うなんて無理だ、絶望的だよ……。


「人間って時々さ……プライドとか体裁とかで、本当の気持ちを隠してしまうよね」


ぼんやりと月を見上げる棗くんが、ポツリと呟く。

その横顔がどこか寂しげで、私は目が離せなくなった。