「……なら、もう……一生帰らないっ」

そう言って、その場を全力で飛び出した。


「美羽!!」


棗くんの引き止める声にすら、振り返る余裕がなくて……。

私は泣きながら、逃げる様に走った。

行き先も決まらないまま、全力で。



***

【棗side】


美羽が飛び出したリビングには、俺と美羽のお父さんだけが取り残された。


「お前……前も美羽といたな……」


沈黙が続く中、先に声をかけてきたのは美羽のお父さんだった。


「はい、挨拶が遅れてすみません。須々木 棗です」

「そうか……」


俺をチラリと見ると、脱力したようにソファーに座り込むお父さん。

その肩はすっかり落ちている。


まさか、美羽に辛く当たったことに、本当は後悔してる……のか?

それなら優しくすればいい、だけど……。

そう出来ない理由がお父さんにはあるのかもしれない。


「美羽……美羽さんのこと、追いかけないんですか?」


俺は静かにお父さんに声をかけてみる。


こんな外も暗くなる時間に飛び出した美羽のことが気がかりだ。

だけど、今じゃなければ、お父さんの本心を知ることは出来ない気がした。