その時だった。


 「あっ、楠木さんだ!」


 突然次の見学者が現れた。


 しかも若い女の子が複数で。


 「写真お願いします!」


 学生風の若い子たちは一斉に会場内に入ってきて、彼の前にスマホを手に突進してきた。


 彼はしばらくの間、若いファン(?)の対応に追われることに。


 そのどさくさに紛れて私は逃れ、入り口付近に用意されていた芳名帳(ゲストブック)に名前を記載。



 「桜坂 美花(さくらざか みか)。郵便番号004-……」


 私の前にも来訪者の名前がたくさん記されてる。


 あの容姿からして、女性ファンがかなりついていると推察される。


 記されているのも、女性の名前のほうが若干多いかも。


 名前と郵便番号、住所を記載。


 何らかのダイレクトメール程度なら送られてくるかもしれないけれど、トラブルに巻き込まれることはまずないだろうと個人情報を書き込んだ。


 そして会場を後にした。


 駐車場に戻って車に乗り、店から外に出ると辺りはすでに真っ暗だった。


 冬は日没が早い。


 (北極圏内だったら、今の時期とっくに太陽が現れない季節なんだろうな)


 さっきの展覧会の影響か北緯43度の街から、さっきまで写真を見ていた北緯69度、はるか北の果ての世界についてあれこれ考えてしまった。