「普通の人生に、戻れるチャンスは、あったかもしれない……。でも、そちらに背中を、押してやれなかった……。あの子を手放すのが、惜しいと思ってしまった……」
「………」
「すみません……。あなたも、非道い目にあわせてしまって……。ただ、最後に、あの子だけは逃がせたか……知りたい」
「………」
何ものでもない誰かに、問われているのだろうか。
自分はこの件に関して、何者でいるのかを。
被害者遺族か、咲桜の恋人か、学者としてか――
「やはり、襲われたとき、彼女も一緒だったか」
――その全部をひっくるめて、この事件を解決するものを、選びたい。



