「神宮くん。いつも言ってますけど、このジジイの名前、使えるとこではとことんお使いなさい」
 

守衛室の扉を閉じ、鍵を閉めるために待っていた流夜に言った。


流夜は、ふっと笑う。


「まさか。やっと血なまぐさい現場から解放されたじいさんを引きずり戻すほど、非道でもないつもりですよ」
 

それでは、と鍵が締まったのを確認して、流夜は振り返る事なく戻って行った。



+++

 
だから事件は嫌いなんだ。
 

大すきな君に逢えなくなったから。


「いや、お嬢さんがあまりに君と同じことを言うからびっくりしましたよ」
 

仕事で悩んでいた自分に、妻はこう言った。


『あなたのお仕事で、救われる人もいますよ。同時に裁きの舞台へも送りましでしょうが、あなたが事件を解決することで、解かれる心もあるでしょう。だから、諦めないでください。あなたのお仕事は、わたしの誇りなんですから』


「似すぎてますよね。ちょっと心配になるくらいだ」
 

だから、もう少しだけ。


「彼らを見てからにしようと思うんです」
 

心配だから、もう少しだけ、見守って。
 

それから。


「それまで、もう少しだけ、待っていてください」