だから事件は嫌いなんだ。
 

すきな子に逢えなくなるから。


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所員たちに平らげられた重箱を持ってやって(七人もいるので咲桜は相当量を作ってくれる。それが入るのは重箱くらいだ)、咲桜を玄関まで送りに出た。


「疲れてるとこ悪いな。今日もありがとな」


「ううん。少しでもみなさんに喜んでもらえたみたいでよかったよ」
 

咲桜はいつもの笑顔で微笑む。
 

まあ、今日は同時にいくつかの小さな心臓も破壊したけど。


実のところ、咲桜に気が合った男子全部が、頼がおまけでついてきそうなことを嫌がって手を引いたわけではない。


あの日義頼が懐いてしまう様な子を、自分がどうにか出来るわけがないところに怖気づいて退いて行ったのだ。


どちらにしろ、頼の功績か。


「仕事終わったら、また連絡する」


「うん。頑張ってね」
 

本当は傍にいたいのを我慢して、咲桜を先に帰す。


キスしたとき、近くから「ふふっ」と笑声が聞こえた。咲桜がびくりとする。


「今日も仲がおよろしいようで何よりですなあ」


「あっ、す、すみませんっ」


「いいえ。お気をつけて」
 

声は、守衛室からだった。


まあ、玄関のすぐ近くに置かれているから、見ようとしなくても見えるだろう。
 

咲桜は真っ赤になってしまった。


それも流夜には可愛くて、頭を撫でて送り出した。


「よいお嬢さんにお育ちましたな」
 

守衛室の窓を開けたまま、去って行く背を見ている。


流夜は脇の壁に背中をついた。


「貴方に褒められたら在義さんも誇れますよ。元警察庁長官殿?」